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仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)490号 判決

控訴人(被告) 岩手県知事

被控訴人(原告) 原田芳男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(証拠省略)

理由

原判決添付目録記載の(2)の宅地が被控訴人所有であり、これを数十年前から窪田千太郎に賃貸してきたこと、窪田千太郎は旧自創法の規定により買収農地の売渡を受けて自作農となつた者であること、右宅地につき同人の附帯買収の申請に基き福岡町農地委員会が昭和二十二年十二月二十七日旧自創法第十五条第一項第二号に該当するものとして買収計画を樹立し、その結果控訴人が被控訴人宛昭和二十三年四月一日附これが買収令書を発し、昭和二十四年二月十五日被控訴人にこれを交付したことは当事者間に争がない。

そこで右宅地が窪田千太郎の営農上必要であるかどうかについて判断するに、成立に争のない甲第三号証、第五号証、乙第三号証、原審及び当審証人菅孝一(後記採用しない点を除く)、当審証人窪田千太郎の各証言、原審における検証及び鑑定人田村元吉の鑑定の各結果を綜合すると、右窪田千太郎は小作地九畝二十歩を耕作しているほか岩手県二戸郡爾薩体村大字堀野所在の畑三筆合計二反四畝二十六歩の売渡を受けて自作農となつたこと、その家族は大人五人小人四人の九人家族であるがそのうち専ら農業に従事しているのは二人のみであること、買収計画樹立当時頃以来千太郎の同居の長男実は会社員をしておりその給与所得に家計の一半を依存していたこと、前記宅地は右売渡農地とは五百米乃至八百米を距てるに過ぎないが福岡町の市街地に位置し地上には元料理屋であつた間口約七間奥行十余間の三階建のその地方としては豪壮な建物があり、該建物はもともと農家の居住用として建てられたものでないこと、右千太郎は前所有者からこの建物を買受けて居住しているが、建物一階は十畳二室、八畳二室、六畳一室、四畳半三室、二階は六畳三室及び十畳一室あり、そのうち従来階下四畳半三室とこれに隣接する約一坪半を安ケ平平次郎に賃貸し、同人はそこでパーマネント業を営んでおり、また二階六畳二室を他に間貸していて千太郎方において右建物全部を自ら使用していなかつたこと、右宅地内には農具の格納等に使用する小屋その他の建物があるほか空地は農事作業にも利用されているが、売渡を受けた農地の面積からすれば宅地面積が広大であり、右の関係からして全体としてみれば該宅地は営農以外に使用されている面が営農に使用されている面よりも相当程度多く、右売渡を受けた農地の営農のためにその全部を必要とするものでないことを認めるに十分である。右に反する前示証人菅孝一の証言は採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

しからば右宅地を窪田千太郎が右認定のように営農上使用しているとしても、その土地全体が前記売渡を受けた農地の営農上必要であるとはいゝ難いから前示附帯買収の申請に基く該宅地の買収は許されないものといわななければならない。

よつて控訴人の前示買収処分は違法であつて取消を免れないものであるから右の取消を求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、これと同旨の原判決は相当で本件控訴はその理由がない。よつて民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 佐々木次雄 畠沢喜一)

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